カバーに書いてあるのでネタバレでないのがありがたい。主人公は他人の波長にシンクロする能力を持っているが、同時にそれは人を傷つける呪いでもある。心とは?人とは?そして、特殊な能力を持つ主人公は人として生きていく資格があるのか。
行きつ戻りつする独特の文体と相まって幻想的かつ哲学的で、言葉遊びのようでもありながら本質を突いているようでもある。物語内に幻が二体現れるが、それらは我々の誰もが親しみを持って知っている幻だ。共同幻想を通して読者と物語もシンクロする。その先には何があるのか。愛か。恐怖か。
読んでいて筒井康隆の「家族八景」「七瀬ふたたび」「エディプスの恋人」の七瀬三部作を思い出した。本作より七瀬三部作の方がいくぶんグロテスクだが、どちらも人の異様さ、そして異様であるのが人の本質であることを表している。この辺が面白かったら、同じ筒井康隆の「パプリカ」もどうぞ。「パプリカ」は漫画化もアニメ化もされてます。面白いですよ。
筒井康隆のことになっちゃいましたね。本作は、自分の心の底へ底へと降りていく時に、何かに対して感じた畏怖の念を思い出させる一冊。面白いです。かなりキケンです。