泣く子も黙るベートーヴェン、というイメージですが、実際には売れっ子じゃなかったみたいですね。
今みたいな録音メディアがなかった時代、作曲家の収入といったら、曲を頼まれた時にもらう委嘱料と、自分の曲が取り上げられた演奏会の入場料からの分け前くらいのもの。なので、ロングランで回数を期待できるオペラが当たればウハウハ。同時代のウェーバーやロッシーニなんかは、数多くのオペラが上演されていたので儲けてたでしょうね。
で、ベートーヴェンもオペラを書きたいんですが、軽妙なオペラなんか誰もベートーヴェンに頼みやしない。というか、頼まれても書けない。というわけで、頼まれるのは英雄譚みたいな重い話ばっかり。一般大衆がドタバタコメディや色恋話を好むのはいつの時代でも一緒。結果、ベートーヴェンのオペラは売れない。かわいそうに。
しょうがないので、しかめっ面して小難しい交響曲とかを作曲してて、その中の傑作が第九。いやー、凄い曲です。当時は受け入れられなかったみたいだけど。かわいそうに。
第九はシラーの詩を第四楽章に使ってるわけですが、実はこっそりシラーの詩にないフレーズを入れちゃったりしてます。「喜びの音は我と共にある」みたいなやつを。オペラが当たらなかったのが悔しかったんでしょうね。なんか、いじめられっ子が家に帰ってからデスノート書いてるみたい。かわいそうに。
大体評価されるのは死んでからなんですよね。ほんとにかわいそうに。
で、さすが第9、ディスクは名演揃いで選び放題です。重厚なベートーヴェンがお好きなら、カール・ベーム&ウィーン・フィルなんかいかがでしょう。
華やかなベートーヴェンならカラヤン&ベルリン・フィルで。
現代の指揮者に目を向けてみると、さすがのラトル&ウィーン・フィル。細部にまで目の行き届いて、なおかつ大胆。
実は、私はこれが好きです。シノーポリ&シュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場管弦楽団)。
大学で心理学や脳外科を学び、音大では作曲を専攻、現代音楽の演奏に定評があるという異色の指揮者シノーポリ。その経歴から分析的な演奏かと思いきや、枠にはまらない熱狂を作り出すという唯一無二の人、、、だったんですが、惜しくも2001年に55才の若さで亡くなってしまいました。日本人の指揮者で例えるなら若杉弘のような人とでも言ったらいいのか。
そのシノーポリが残した唯一の第9。ライブということもあいまって、実に感動的な演奏です。